音楽科授業におけるICT活用の意義と効果的な実践
「小中高をつなぐ音楽科ICT講座」

教科書に掲載されている二次元コード(教育芸術社)

小学校1年生、2年生の教科書を調査
小学校1年生、2年生の教科書に掲載されている二次元コードの表

■小学校1年生用

30の二次元コードのうち、
旋律の提示26(MIDIピアノ音源)
打楽器奏者による動画コンテンツと鑑賞のコンテンツが新たに加わる。
旧学習者用デジタルコンテンツを引き継ぐと聞いていたが、実際は「ことばでリズム」のコンテンツのみ。つまり、デジタルコンテンツをあまり継承していない。リズムの学習を中心に置くべき小学校低学年であるかかわらず、リズムの学習が曲の再生のみに変わってしまった。

打楽器奏者による動画コンテンツ トライアングルの持ち方と鳴らし方(小1 p.52)
鑑賞曲「こうしんきょく」の動画コンテンツ

■小学校2年生用

32の二次元コードのうち、
旋律の提示29
新たなコンテンツとして、音符や休符の書き方に関する動画
表のうち、2−6「ドレミのふうせん」、2−9の旋律づくり、2−11、12、13のバッテリーリズム、2−15の「おまつりの音楽」の音楽づくり、2−17の「楽器でおはなし」の音楽づくり、2−18の『かぼちゃ』の打楽器の音の重ね順の組み合わせの例が、デジタルコンテンツ(令和2年度版)の内容を踏襲している。
2−6、9、11、12、13、15、18に関しては、若干のレイアウトの変更はあるものの、内容や動作もほぼ同じである。2−17の「楽器でおはなし」の音楽づくりに関しては、新たに自分でリズムパターンをつくる活動が追加され、学習内容として改良されている。
このように、2年生に関しては学習者用デジタルコンテンツ(令和2年度版)の内容がかなり受け継がれている。

■二次元コードコンテンツの意義

教育芸術社のホームページには、二次元コードから広がる学び〜として、以下の3点が示されている。

  1. 紙面上の二次元コードを読み取ることによって、学習をサポートするコンテンツをICT機器等で閲覧することができるようにした。
  2. 授業で使用する際に、授業の流れを妨げることなくスムーズに閲覧できるようにコンテンツの容量に配慮している。
  3. スマートフォン等での長時間の動画視聴による料金トラブル等を防ぐ意味で、特に動画は短めのものを精選している。

つまり、二次元コードは、文部科学省が推進するICT教育や教育DXの一環として導入され、児童生徒一人一台タブレット端末を前提としている。

■二次元コードコンテンツに関する改善すべき点

(1)操作性

  1. 二次元コードをもう一回り大きくすると読み取りやすい。
  2. それぞれのコンテンツに使用方法や目的を記載したほうがよい。お家の人と一緒に操作しようとあるにもかかわらず、説明がないので、児童自身はもちろんのこと、補助を行う側にとってもどうしたらよいかわからないコンテンツも多々ある。
  3. 白い画面に文字だけ出るものが多いため、イメージが湧きにくい。教科書のイラストと連動させたり、楽しく踊っている動画、具体的な演奏のコツや工夫を口頭で伝える教材を増やすことが望まれる。
  4. 小学校低学年の児童でも無理なく感覚的に操作できるよう、簡単な言葉づかいや直感的なデザインが必要である。
  5. コンテンツがズームできないし、タッチできる範囲が狭く、操作するには扱いにくい。
  6. 「ドレミのふうせん」がタップしただけでは発音せず、長押しして初めて発音するので改善が求められる。

(2)内容面

  1. 二次元コードの数が多く、動画やインタラクティブな要素があるものなどに厳選するほうがよい。
  2. 歌唱曲のほぼすべてに二次元コードを付ける必要はないのではないか。二次元コードの多さがかえって使いにくさを生んでいるように思える。また、ほとんどの音源が単純なMIDIピアノ音のみによる主旋律の再生であり、もっと打楽器を使用したり、実際の歌声や伴奏(カラピアノ/カラオケ)があるとよい。著作権等の関係で不可能なのかもしれないが、低学年では曲そのものを認識するためにも歌唱音源が必要であろう。
  3. 鍵盤ハーモニカを主として学ぶ学年であるにもかかわらず、鍵盤ハーモニカ関連の動画がほとんどない。
  4. いつも同じテンポで再生され、楽曲に慣れていない児童がテンポを落として聴くことができない低学年の場合は、メトロノームの上下だけではなく、ゆっくり、少しゆっくりといった表記の仕方が望ましいのではないか。
  5. 視覚的な補助(動画、イラスト、ズーム機能)が不足しているため、児童の理解やイメージ形成が困難である。
  6. 二次元コードの活用は、既存コンテンツのデジタル化にとどまらず、デジタルならではの付加価値を提供すべきである。

■今後の課題

小学校1、2年の音楽教科書における二次元コードは、児童の主体的な学びや家庭学習支援、教師の指導補助といった大きな可能性を秘めている。二次元コードの内容が充実すれば、学校の音楽の授業以外でも音楽を学ぶことができ、子どもの意欲を喚起したり、苦手な児童をサポートすることができるだろう。
しかし、現状では、MIDIピアノ音源がほとんどであること、動画コンテンツの解説が不足していること、操作性やコンテンツの内容そのものの課題など、多くの改善点が指摘された。

  1. 多様な音源(歌唱音源、実際の楽器音源)の提供
  2. コンテンツの目的と使用方法の明確化、総量の厳選
  3. 児童が能動的な操作し、創造性を発揮できるインタラクティブな要素の拡充
  4. 家庭での活用を促進するためのガイドラインの提示などの工夫
  5. 小学校低学年の場合、もっと直感的に操作できるユーザーインターフェイスの改善が不可欠である。

■中学版の内容は充実しているらしい…。