ICT Music Session

INDEX

リンク

デジタル音楽教科書の状況(日本の場合)(2015.10)

デジタル教科書の状況―2回目の今月は、今春2社から発売された小学校版デジタル音楽教科書(指導者用)について取り上げます。

教育芸術社(以下、教芸)と教育出版(以下、教出)のデジタル音楽教科書についてまだあまりご存知ない方は、まず両社のウェブサイトをご覧ください。教芸のサイトでは「授業が変わる!子どもが輝く!音と情報が連動した音楽デジタル教科書」として、商品の紹介 PDFファイル、主な機能や内容を説明するムービーが載っています。また、教出のサイトでは、「教えやすく、学びやすい授業を支援します」をキャッチコピーに、同社のデジタル教科書共通の特徴、音楽を含む7教科の内容が説明されています。

教芸のデジタル教科書の分野別概要は次のとおりです。

歌唱
  • 模範演奏の再生
  • 縦書き歌詞の表示
  • 朗読の音声(歌唱共通教材)
  • 歌声のための指導動画
器楽
  • リコーダーや鍵盤ハーモニカの学習における楽譜と運指の連動表示
  • 奏法の指導動画、器楽合奏譜のパート別再生
音楽づくり
  • 実践のヒントとなる動画
  • 楽器およびリズムパターンカードによる音楽づくり
鑑賞
  • 譜例の拡大表示と演奏再生
  • 楽器および奏法に関する説明動画
資料
  • 楽典カードなど

教出のデジタル教科書については、以下のような特色があります。

譜例の拡大表示
  • 表現および鑑賞教材における楽譜等の拡大表示
  • 縦書き歌詞の表示
曲の簡単再生
  • 表現教材ではパート別にMIDI
  • 鑑賞教材では曲の冒頭をMP3で再生
歌唱や楽器演奏の習得に使える動画資料
  • 技能の習得に関する説明動画
「音楽づくり」をわかりやすく学ぶコンテンツ
  • 「音楽づくり」等の実践をアニメーションで解説

実際に私が教芸のデジタル教科書を視聴してみてよいと思った点は、歌唱の模範演奏が高音質であること、リコーダー演奏の解説が丁寧であること、楽器およびリズムパターンカードの組み合わせによる音の再現がわかりやすいということでした。

また、オーケストラの楽器や箏(特に角爪、丸爪の説明)に関する説明、音階や楽譜と鍵盤の位置との対応に関する説明に動画が使用されていること、図形楽譜に具体的な音が示されていることなども、子どもたちの音楽に対する理解を促すでしょう。楽典を学ぶ際の付箋機能も授業を楽しくすると思いました。

教出のデジタル教科書のよい点は、歌唱や器楽曲の再生時、テンポの上下や途中再生ができることです。また、「きょくのかんじに合わせて体をうごかそう」(2年生)や、見開きで日本各地の民謡、世界の音楽が紹介されている鑑賞のためのページなどでは、「CDをきいてみよう」の他に、「すぐきいてみよう」があり、後者ではそれぞれの音楽の冒頭部がワンクリックで聴けるのはうれしいですね。同じ2年生の「音の長さくらべ」のアニメーションも面白いコンテンツであると思いました。

一方、改善が望まれる点もあります。例えば教芸のデジタル教科書に対しては、歌唱曲・器楽曲の場合は区間再生とテンポの可変、伴奏のみの再生を、2部合唱曲などの場合はさらにパート別の再生を実現していただきたいです。
教出のデジタル教科書に関しては、歌唱曲・器楽曲の再生にMIDIが使用されていることです。現在、WAVEのテンポ、調の可変は無料の音楽アプリでも可能ですから、少なくともMIDIピアノ音源による歌唱曲の再生は、生のピアノ音源にするとよいと思います。

小学校版デジタル音楽教科書(指導者用)の目標の一つに、担任教員による音楽授業の質を専科教員のそれに近づけることがあるはずです。音楽室に十分大きなスクリーンがあり、教科書のページを見開きで投影できれば、子どもたちを授業に集中させることができるでしょう。学習の目標も拡大表示できるので、模造紙に目標を書いてボードに貼る手間も省けます。

しかし、それだけでは担任教員による音楽授業の質的向上という目標を実現することは難しいでしょう……。担任教員を支援するためには、担任教員と音楽専科教員の差を明らかにし、その差を少しでも埋めるためにはどういうコンテンツがよいのか、また、デジタル教科書の授業支援ツールなどをどのように活用するのか、現場の先生方(専科も担任も)、教科書会社、研究者らが意見を出し合い、共有するコミュニティが必要ではないでしょうか。

先月号で紹介した韓国のデジタル教科書のデータ容量は3.4GB、教芸、教出のデータ容量は6学年の平均でそれぞれ0.545GB、0.811GB。データ容量を小さくしておきたいという事情や、著作権の扱い方の違いにより、日本では韓国のように音や映像を自由に盛り込めないこともわかるのですが、そうした事情や法律の違いを知らない人は内容で評価してしまうでしょう。よい着地点が見つかればと願っています。

この記事を執筆するために、教育芸術社からは1か月間の無償提供、教育出版からは視聴の機会の提供をいただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。

この頁のいちばん上へ