ICT Music Session

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「音楽科教育とICT」第5回 音楽室のICT化を考える(2015.8)

電子黒板、デジタル教科書、タブレットPC。これらは、2010年代において教育のICT化のための「三種の神器」とみなされています。音楽の授業でも果たして同様でしょうか?

今月は、音楽室のICT化について考えることにしましょう。

電子黒板の現状

2013年6月、文部科学省は、「教育のIT化に向けた環境整備4か年計画」を公開し、2017年までに全普通教室にコンピュータ、電子黒板、実物投影機を各1台ずつ整備するという目標を掲げましたが、特別教室には1校につきコンピュータ6台となっていて、電子黒板に関する記載はありませんでした。このことから、例外的な学校を除き、音楽室に(常設の)電子黒板が設置されるのは難しいのではないかと予想します。

電子黒板は年々進化しているにもかかわらず、音楽の授業で電子黒板をどのように活用すればよいのか、音楽教育の研究者や音楽の先生の間で議論されたことは今までほとんどないこと、また、音楽の授業では電子黒板の機能をフル活用する場面もなさそうであることからも、音楽室への常設は実現しないと考えます。

ノートPC・タブレットPC(教員用)+プロジェクター+スクリーン(常設)

このような現状を踏まえると、ノートPC・タブレットPCの画面を映し出せるプロジェクターと、大きなスクリーンとを組み合わせたシステムを設置し、デジタル教科書、電子教材、DVD/CDなどもすべてこのシステムから提示・再生させることが当面の解決策となるでしょう。音楽科では音質が重視されるので、スピーカーは可能な限りよいものを選ぶのが望ましいです。スクリーンに関しても、教科書の楽譜をそのまま映した際に、教室の最後部からはっきりと楽譜が見える大きさのものが必要です。

高速通信回線も必須。インターネットに接続できれば、YouTubeなどの動画を再生できますし、教材をクラウドに保管しておき、そこからダウンロードして使用することができます。動画再生サイトやクラウドもすでに日常化していますので、音楽の指導にそれらを活用しないのは本当にもったいないと感じます。

このシステムの他に必要なものとしては、カメラ、ビデオカメラなどの録音・録画のための機器。例えば、CD-2i SD/CD Recorder(Roland)などは大変便利です。

デジタル教科書、タブレットPCは?

ご存知のように、指導者用音楽デジタル教科書は今年4月に小学校版が2社から発売されたばかり。今後、現場の先生がその使用感や内容への要望を教科書会社に伝えることによって、少しずつ改良されることを願っています。

タブレットPCについては、音楽室に複数の児童生徒用タブレットPCがあればグループ学習が可能となりますが、どうしても音が混ざり合い、学習に集中できないと思います。また、他教科で行っているようなグループによる調べ学習ばかりやっていたのでは、音楽科の特性が発揮できません。そうなると、やはり「児童生徒一人1台端末」になるまで待つのが得策という結論に達するのではないでしょうか。

一人1台ずつタブレットPCが与えられ、それを家庭に持ち帰ることができるようになると、自身のペースで模範演奏を観て練習したり、録画機能を使って自分の演奏を評価するといったことができるようになります。一人1台のタブレットPCには、学習者用デジタル教科書だけではなく、例えば音楽創作のためのアプリ、GarageBand(Apple)を学校用にカスタマイズしたものを搭載してほしいなあと思います。

アプリを積極的に活用する

音楽の先生にまずやっていただきたいのが、所有しているCDをiTunesにインポートし、タブレットPCなどから再生すること。これだけでCDを入れ替えるというストレスがなくなります。自治体の中には、ダウンロードにかかる費用を通信費として認めたり、iTunesカードを配布するところも出てきましたので、教科書会社などには授業で使用する音源をダウンロード販売していただきたいです。

移調やテンポの変更、リピート再生、キューポイントの指定などが自由にできるアプリも役に立つでしょう(djay2(algoriddim GmbH)など)。また、オーケストラ鑑賞のためのアプリ、Ochestra(Touchpress Limited)もおすすめです。もしこうしたアプリの開発ノウハウを鑑賞曲に応用したならば、非常に良質な学校用音楽鑑賞アプリになることでしょう。

学校用楽器はどうなる?

楽器については、当分の間リコーダーと鍵盤ハーモニカが中心となる状況は変えようがないと思いますが、さまざまなジャンルの楽曲に対応するために、学校の音楽室にはない楽器の音を出せる、学校用電子キーボード、Hand Sonic(Roland)などの電子打楽器を積極的に導入してほしいです。

以上、学校の「外」にいる音楽教育家の立場から音楽室の近未来を構想してみました。学校の先生方にはおそらくさまざまな制約があって、最も条件のよい商品やサービスをその都度選択していくことは容易ではないと思います。しかし、最近の電子機器、ソフトは非常にコストパフォーマンスがよく、特にアプリは驚異的です。ICTが苦手という先生も、少しずつでもよいのでぜひ取り入れてみてください。

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