月刊ミュージックトレード(ミュージックトレード社)に連載した
コラムのバックナンバー

2004年6月
突然舞い降りた天使、いびつな高齢化社会の救世主
深見友紀子(Yukiko FUKAMI)

 GWは新しい住まいのための家具を買いに行ったり、久しぶりに旧友と会ったりして、京都で過ごした。仕事を終えるとサッと東京に戻っていた富山勤務の頃と違って、首都圏と関西圏の両方に生活の場があることはうれしい限りだ。新幹線の本数が多いので移動のストレスも少ないし、京都駅烏丸口夜十一時発、東京行きの女性専用夜行バスを使えば、東京駅に翌朝六時半に着き、一日を充実して過ごせることもわかった。「テロを警戒してのぞみには乗らないのですか」とか「疲れませんか」と聞かれるが、時間とお金を節約し、日焼けを避けるためという単純な理由である。

 さて今月は、GW明けの日曜日、自宅地下スタジオ(ミュージック・ラボ 新宿区)で開いた「さくら&真理子のミニミニライヴ」について話題にしようと思う。

 このライヴのメイン出演者はさくらちゃんと真理子ちゃんの二人のみ。それにゲストとして、幼稚園年長からピアノを習い、今年中学生になった双子の兄弟Sくんたちが加わった。彼らはシューベルトの即興曲作品九十の四と、ベートーヴェンの悲愴ソナタを弾いてくれた。

 さくらちゃん(四歳)は、勤務医のお父さんと弁理士資格を持つ会社員のお母さんの一人娘で、保育園に通っている。真理子ちゃん(五歳)は私がいつも行くスーパーの近くのマンションに住む、お茶の水女子大学附属幼稚園生、お受験勝ち組の女の子である。この二人は、たまたまお母さんが通りがかりに私の教室の玄関脇に置いてあるパンフレットをみつけて、昨年秋から冬にかけてレッスンを受けることになった。

 ライヴ当日、仕事の都合で両方のお父さんは欠席、お祖父さん、お祖母さんの姿もなかったものの、友たちとそのお母さん(お父さん)三十人近くが来てくれた。大人の出演者ならせいぜい二、三人連れて来るのが普通であり、なかには当人だけということもある。特に中学生・高校生の男子の場合、誰も連れて来ないことが多い。それと比べるとこの数! 幼い子どもやそのお母さんの交際パワーは本当に凄い。ありがたいことに集客力、教室に活気をもたらすパワーともに桁違いなのだ。

 さくらちゃんと真理子ちゃんは、それぞれ幼稚園や保育園で歌っている音楽、ディズニーの曲など自分の好きな曲を演奏した。また、前日になって急遽一曲ずつお母さんとのデュオ(連弾とボーカル)もやることになった。出演者が四人しかいないので、私も久しぶりに、真理子ちゃんのリクエストである「ホーンテッドマンション」とお友たちのお母さんのリクエストである「My Memory(冬のソナタより)」を演奏した。前者はこのGWにロードショーになったディズニー映画の、後者は韓国の人気ドラマのテーマ曲である。

 本誌編集部の韮塚敏夫さんによれば、(猫も杓子も習っていた時代と比べると)現在の音楽レッスンはある一定以上の経済力を持った人たちのものになっている(本誌四月号、七十頁)ということだが、その一方で、そうした層の人々にとっては、音楽レッスンは他の早期教育と同様、至極当たり前のものなのではないだろうか。子どもたちもお母さんたちも明るくて積極的だ。

 真理子さんのお母さんは、今年の末に予定しているライヴに母子で出演するため、六月からレッスンをしたいと言う (しかも十二月までの期間限定、来年の下半期にはまた再開予定! )。また、冬のソナタをリクエストしたお友達のお母さんは、「冬のソナタの二曲だけをやるというのでもOKですか」と尋ねた。どちらにも「もちろんいいですよ」と私は答えた。

 たとえ新しいタイプのものであっても、一つの教則本シリーズによる画一的な指導ではこうしたニーズには応えられないような気がするので、教育には関心のないミュージシャンにもレッスンに参入してもらえたら、より多くの要望に対応することができると思う。NHK教育テレビの幼児向け音楽番組もううあ(UA)を起用して急速に様変わりする今、音楽教室のデザイン面なども斬新にしていかなくては、他の新興お稽古事に負けてしまうに違いない。

 韮塚さんは地域に密着したPR活動の大切さを説くとともに、「社会全体の人口構成と同じで、幼少児人口が順調に育たないと社会はいびつになる」と忠告している(同エディトリアル)。最年少が小学校六年生だったのに、玄関脇にパンフレットを置くしか幼少児に対して宣伝するすべがなかった私の教室にとっては、この二人の女の子は、細々としたPR活動の結果の貴重なお客さんであり、まさに突然舞い降りた天使、いびつな高齢化社会の救世主なのである。

 さくらちゃんと真理子ちゃんが相次いで来た頃と私が京都女子大の児童学科教授に内定した時期が奇しくも重なっている。「コンピュータばかりやっていないで、子どもの音楽教育はあなたの使命」神様の声が聞こえるような気がする・・・・・。

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