電子キーボードを活用した幼児の音楽セッションに関する研究
A Study of Exploring Potentiality of Keyboards into Preschool Music Education

深見友紀子(京都女子大学教授)、冨田芳正・横山七佳(渇ケ感教育研究所)
Yukiko FUKAMI, Yoshimasa TOMITA, Nanaka YOKOYAMA

(京都女子大学 発達教育学部紀要 第2号 平成18年2月より)




はじめに

 現在、電子キーボードは、楽器店や家電量販店で販売されている。「ピアノを置く場所がないから」「ピアノのような高価なものを買っても子どもがレッスンを続けるかどうかわからないから」などの理由で、"とりあえず"購入されることが多く、安価で手軽であるために、電子楽器のなかでの位置づけも低い。
 本研究の目的は、"ピアノの代用品"さらには"電子ピアノの代用品"として認識されているこの電子キーボードを幼稚園や保育園、児童館などのリトミック活動や音楽あそびに導入し、その活用の可能性を探ることにある。
 筆者らが実践の場として幼稚園や保育園、児童館を選んだのは次の理由による。
・最近、キーボードが設置されている幼稚園や保育園、児童館などの児童施設も多くなったが、ほとんどがピアノ・電子ピアノの代用、あるいは小型の電子キーボードの場合は"音の出るおもちゃ"として用いられており、その機能を有効に活用した例はほとんどないこと。
・ピアノを使ったリトミック活動は、ピアノの演奏技術や即興演奏力のない保育者にとって難しく、日常的に実践できるものではないこと。
・最終的に読譜力や演奏力の育成を目標とする音楽教室とは違い、幼稚園や保育園、児童館は音楽あそびの実践をするのに適した場であること。
 そこで、筆者らは、ピアノ演奏が得意ではない一般の保育者でも電子キーボードを使ってすぐに取り組める実践や、社会教育施設の子育て支援の場でできる音楽あそびなどを考えることにした。本稿では、そのアイデアをまとめることにする。



1.電子キーボードとは

(1)電子キーボードの特徴 1)

 軽量で持ち運びが簡単であり、電源を電池で供給することができる電子キーボードは、高性能な機種であっても鍵盤数は76鍵以内であるという点で、88盤をもつ電子ピアノとは区別される。
 多彩な音色、リズムパターン、シンセサイザー機能、シーケンサー機能、大型液晶表示などを搭載する高音質で多機能なキーボードから、自動演奏機能、自動伴奏機能付き、レッスン曲を内蔵した鍵盤初心者のためのキーボード、幼児の小さな手指にぴったりのミニサイズ鍵盤をもつ、鍵盤への興味づけになるキーボードまでさまざまな種類がある。つまり、ステージでも演奏可能な本格的なもの、家庭での鍵盤学習のためのもの、子どもが楽しく鍵盤とあそぶことを目的としたものといったおおまかな区別があるといえるのだが、それぞれに厳密な区別があるわけではない。
 上級機種では、打鍵の強弱、あるいは鍵盤を押してから離すまでの間の指の圧力で、音の大小だけでなく音の表情の変化をより自然に再現することも可能になっている。しかし、子どもが電子キーボードを演奏する場合の利点は、重すぎるピアノの鍵盤とは異なり、2 、3歳の子どもにも楽に演奏できることであり、ピアノの鍵盤で行うと指をケガするかもしれないグリッサンドなども軽やかにできるということである。
 また、演奏を録音し、スマートメディアなどに記録できる機能、鍵盤が光って、次に弾くべき鍵盤に導く光ナビゲーション機能、指づかいを音声で教えてくれる運指音声ガイド機能、マイクなどをもつキーボードも多い。さらに、インターネットカラオケ配信サービスが受けられるタイプのキーボードでは、インターネットに接続したコンピュータとつなぐことにより、好きな曲をダウンロードしてキーボードに送信し、内蔵曲を増やしたり、鍵盤を光らせて演奏させたりすることもできる。また、ダウンロードした楽譜はプリントしてレッスンに活用できる。

1) カシオ計算機株式会社 http://www.casio.co.jp/emi/
  深見友紀子『デジタル鍵盤楽器で遊ぼう-基本の知識と活用例-』明治図書 平成10年8月(1998)



(2)CASIO光ナビゲーションキーボード LK-5BE

今回の実践では、CASIO 光ナビゲーションキーボード LK-5 BE(写真1)を使用した。

CASIO 光ナビゲーションキーボード LK-5BE
写真1 CASIO 光ナビゲーションキーボード LK-5BE

・上)トーンボタン(100音色)
・中)リズムボタン(25パターン、速度可変)
・下)ソングボタン(20曲、速度可変)

@トーン(音色) 全100色
ピアノ、オルガン、ギター/ベース、ストリングス/アンサンブル、ブラス、リード/パイプ、シンセサウンドT、シンセサウンドU、レイヤー、その他/パーカッション など全100音色

Aリズム 全25パターン(本稿で取り上げたリズムパターンは文末に資料として掲載)
ポップス、ロック、ジャズ/ダンス、ラテン、その他 など全25パターン

Bソング(曲) 全20曲
「『となりのトトロ』より さんぽ」、「だんご3兄弟」、「となりのトトロ」、「めざせポケモンマスター」、「『ポケットモンスター』より タイプ:ワイルド」、「ドラえもんのうた」「サザエさん」、「『ポンキッキーズ』より チャイルズ・デイズ・メモリー」、「ミッキー・マウス・マーチ」、「小さな世界」、「大きな古時計」、「おもちゃのチャチャチャ」、「星に願いを」、「きらきら星」、「ちょうちょう」、「森のくまさん」、「ねこふんじゃった」、「ジングル・ベル」、「あわてんぼうのサンタクロース」、「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー」

C光ナビゲーションゲーション機能

Step1

Step2

Step3

 どの鍵盤を押さえても正しく発音する。鍵盤を押さえるまで次へは進まない。

 押さえるべき鍵盤が光る。鍵盤を押さえるまで次の音に進まない。

 伴奏とともに通常の速さで演奏する。光ナビゲーションも伴奏も自動的に進む。

Dその他
・抗菌マイク ・日本語パネル ・最大同時発音数12 ・32ミニ鍵盤
・家庭用AC電源/単3形乾電池×5本



2.渋谷区立富ヶ谷保育園(東京都渋谷区)での実践

(1)実践の概要

 平成16年(2004)11月8日から11月26日にわたり、2歳児から5歳児までの子どもたちに、CASIO 光ナビゲーションキーボード LK-5 BEを使って、〔リズム〕、〔トーン〕、〔光ナビゲーション〕、〔電子キーボード+α〕という4つの内容で実践を行った。
 〔リズム〕は、LK-5 BEに内蔵されている25種類のリズムパターンと、スタート・ストップボタン、テンポが変更できることを活用した実践、同様に、〔トーン〕は100種類の音色、〔光ナビゲーション〕は鍵盤が光ることを活用した実践、〔電子キーボード+α〕はカードなど他の素材を併用した実践である。

@3歳児クラス・うさぎ組
平成16年(2004) 11月8日(月) 10時〜
16名 40分
A5歳児クラス・きりん組
平成16年(2004) 11月18日(木) 10時〜
12名のうち6名ずつの2回 30分ずつ
B2歳児クラス・あひる組
平成16年(2004) 11月19日(金) 10時〜
14名のうち7名ずつの2回 20分ずつ
C4歳児クラス・りす組
平成16年(2004) 11月26日(金) 10時〜
11名のうち5名・6名の2回 30分ずつ
実践者は、@〜深見・冨田・横山 A〜冨田・横山 B〜冨田・横山 C〜深見・冨田・横山である。



(2)各実践の詳細

@〔リズム〕

*リズムにのって歩こう・踊ろう
 対象児:2、3、4、5歳
 元気に歩く (リズム#14四分音符=120) → リズムが止まったら歩くのをやめ、再スタートしたら再び歩き出す (ストップ/スタート) → テンポが速くなったら駆け足 (テンポのアップダウン) → 泥棒のように歩く(忍び足) (リズム#11四分音符=120) → 激しくジャンプ (リズム#20四分音符=120) → かっこよく踊る(1・2・3・手拍子) (リズム#08四分音符=120)
*言葉(ものの名前)で音楽しよう
 対象児: 3歳
 「好きな食べ物なんですか」「バナナ」といった問答をリズムにのせて行う。電子キーボードに付属しているマイクを使うことによって園児の答えたいという欲求を高める。
*音(音高)でダンス
 対象児: 5歳
 提示される音の高さによって、即座に振り付けを変えながら踊る。(写真2
 ド=ひざの前で手を左右に振る/ミ=腰に手をあて腰を左右に振る/ソ=頭の後ろで手を組み、頭を左右に振る

ダンスの様子
写真2 ダンスの様子



A〔トーン〕

*打楽器の音で遊ぼう
 対象児:3歳
 鍵盤の音色を打楽器に設定し(トーン#99)、内蔵するソングなどに合わせて自由に叩く。
*物語に効果音をつけよう
 対象児:2、3、4、5歳
 子どもたちを2つのグループに分け、鍵盤の音色をクラクション(トーン#77)、電話(トーン#78)に設定し、鍵盤に目印のシールを貼る。(図1)お話のスライドショーをみせて、スライドにマーク(車/電話)が出てきたら(図2)シールを貼った鍵盤をタイミングよく押す。

鍵盤と音色の割り当て スライドにおけるマークの例
図1 鍵盤と音色の割り当て 図2 スライドにおけるマークの例

*ハンドベル方式で曲を弾こう
 対象児:3歳
 さまざまな音を使って、ハンドベルのように1人一音ずつ担当して曲を演奏する。



B〔光ナビゲーション〕

*「きらきら星」を弾こう〜標準バージョン
 対象児:4、5歳
 光ナビゲーションのステップ2機能(p.2参照)を使用し、光ナビゲーションにしたがって曲を弾く。伴奏が自分の演奏に合わせてくれる(正しい鍵盤を弾くまで伴奏が止まっている)ため、一人の演奏に比べ楽しく、満足感が得られる。子どもたちは人差指1本で鍵盤を押していた。

*「きらきら星」を弾こう〜簡単バージョン
 対象児:2歳
 光ナビゲーションのステップ1機能(p.2参照)を使用し、曲を弾く。この機能を用いるとどの鍵盤を押さえても正しい音が出る。1台のキーボードの鍵盤を順番に差し出し、子どもたちは1人1回ずつ鍵盤を弾く(写真3)。

2歳児の模様
写真3 2歳児の模様



C[電子キーボード+α]

*顔の表情と調性
 対象児: 3歳
 長調と短調の短いフレーズを聞かせ、楽しそうな表情と悲しそうな表情のくまを描いたカードをみせる 2)。(図3) 「どんな顔?」などと問いかけ、子どもたちが表情を再現する。お話を提示して、楽しい、悲しい(つらい)イメージの歌を歌う。

譜例と絵の要素
図3 譜例と絵の要素

*サンタとツリー〜言葉と絵による読譜
 対象児:4歳
 サンタ(4分音符)/ツリー(2分音符)のカードを用意し、メロディを提示する。組み合わせたカードをみながら歌う。(図4図5)

カードの音楽的要素 歌の例
図4 カードの音楽的要素 図5 歌の例

2) 『ミッフィーのピアノの絵本』(ヤマハミュージックメディア)を参考にした。



3.京都女子大学の授業での実践

(1)実践の概要

 2.の実践を踏まえて、CASIO 光ナビゲーションキーボード LK-5 BEを使って〔リズム〕、〔トーン〕、〔光ナビゲーション〕、〔電子キーボード+α〕という4つの内容でアイデアを出し合った。

@1回生 児童表現学T
平成16年(2004) 12月8日(水) 8時50分〜10時20分
A3回生 児童音楽U
平成16年(2004)  12月8日(水) 13時〜14時30分
B1回生 児童表現学T
平成17年(2005) 1月12日(水) 8時50分〜10時20分
実践者は、@〜深見・横山 A〜深見・横山 B〜深見である。



(2)各アイデアの詳細

@〔リズム〕

*ゲーム
 「椅子取りゲーム」、「だるまさんがころんだ」、「ハンカチ落とし」、「はないちもんめ」、「鬼ごっこ」などのゲームをする。
ex. 「椅子取りゲーム」 リズムを順不同に再生。テンポのアップダウン、スタート/ストップを使用する。
ex.「鬼ごっこ」 変化するテンポに合わせて、逃げたり追いかけたりする。テンポがゆっくりになったらスローモーションで歩き、速くなったら走る。(リズム♯04)
*リズム打ち
ex. リズムごとに体の動きを決めて、そのリズムに合わせて動く(手拍子、足踏み、駆け足など)。
ex. テンポに合わせて足拍子をする。テンポの変化に伴い、手拍子、体のいろいろな部分を叩くなど、打つ場所を変化させる。
* 体の動き
ex. ダンス1〜かに歩きをする (リズム♯03四分音符=120) → 手をくるくると回して前後に歩く (リズム♯08四分音符=120) → テンポダウン → 車の形でジャンケン(ケンケンパ)をする(リズム♯14四分音符=90) → テンポアップ → お尻を振り、ジグザグに歩きながら、体のいろいろな部分を叩く(リズム♯16四分音符=120)
ex. ダンス2〜前、後、右、左でステップ (リズム♯16四分音符=120) → リズムストップ 静止 → 左右にケンケン(リズム♯23四分音符=120) → リズムストップ 静止 → 体のいろいろな部分を叩いたり、足踏みしたりする (リズム♯08四分音符=120)
ex. リズムにあったダンスの創作
 ポップス(リズム♯00〜♯04)、ロック(リズム♯05〜♯09)、ジャズ(リズム♯10〜♯14)、ラテン(リズム♯15〜♯19)、その他(リズム♯20〜♯24)から1つずつリズムを選ぶ → それぞれのリズムに合った動きを考える → 保育者がリズムをランダムに変える → 子どもはそれらに合わせて動きを変える
ex. リズムに合わせた動物の動きの創作
 ゴリラ(リズム♯08四分音符=100)、キリン(リズム♯10四分音符=140)、アリ(リズム♯11四分音符=140)、キツツキ(リズム♯15四分音符=120)、チンパンジー(リズム♯16四分音符=120)、ゾウ(リズム♯17四分音符=70)、ウマ(リズム♯19四分音符=130)など。テンポを変更することで、ゆっくりのときは大きく動くといったように、動きに変化をつける。
ex. それぞれのリズムを表す言葉を考える。(リズム♯04四分音符=100) (譜例1)

「たけのこ、ニョキッ!」
譜例1 「たけのこ、ニョキッ!」



A[トーン]

*ゲーム
ex.「爆弾ゲーム」 子どもは輪になる。ソングを再生させ、ソングが終わるまでボールを隣の子どもにまわしていく。終わった時点でボールを持っていた人が負け。
ex.「セリフあてクイズ」 女声や男声、宇宙声(トーン♯39♯74♯76)で、言葉を話すように弾く。何と言っているのかをあてる。
*さまざまなイメージを味わう
ex.「おもちゃのチャチャチャ」 (ソング♯11)を「ハエ・宇宙のイメージ」(トーン♯79)、電話(トーン♯78)、パーカッション(トーン♯99)などの音色にして楽しむ。
*身体の動き
ex.「さんぽ」(ソング♯00)を再生させながらテンポを上下させ、走ったり、歩いたりする。(他のソングでも可)
*劇、絵本、紙芝居の背景音楽・効果音
ex. 紙芝居(既存のお話)…「森のくまさん」(ソング♯15)を再生させて、“森のくまさんとお嬢さん”の紙芝居をする。
ex. 紙芝居(ストーリーも創作)に効果音をつける。…「はかせの実験」“実験の始まりです” (トーン♯24、グリッサンド)→“これとこれを混ぜると・・・” (トーン♯79、和音)→“ポン!” (トーン♯74、低音部でクラスター)→“これはすごい発明です” (トーン♯75)



4.うずらの里児童館(京都市伏見区) での実践

(1)実践の概要

 平成17年(2005)3月11日、10時30分〜12時、地域子育て支援ステーション事業、子育て講座「音楽であそぼう」において、電子キーボードを使った実践を行なった。音楽鑑賞、ハンドベル、手作り楽器による演奏なども交えたため、電子キーボードの実践としては量的に少ないが、その様子を記述することにする。



(2)実践の詳細

@身体の動き
 参加人数が多かったため、音量上の問題から、音量が比較的大きな別のCASIO製の電子キーボードを使った。2.渋谷区立富ヶ谷保育園での実践(2)@〔リズム〕*リズムにのって歩こう・踊ろうとほぼ同じ内容である。

A「こぶたぬきつねこ」を使った音楽あそび
 「こぶたぬきつねこ」のCDを聴く → 鳴き声の部分、こぶた〜“ブー、ブー”、たぬき〜“ポンポコポン”、きつね〜“コンコン”、ねこ〜“ニァーオ”をまねして歌う。(譜例2)

「こぶたぬきつねこ」
譜例2 「こぶたぬきつねこ」

 子どもたちを4グループにわけ、こぶた、たぬき、きつね、ねこの小さなイラストカードと、手作り楽器、電子キーボードを配る。大きな4種類のイラストカードのうちの1つを提示し、その動物グループの子どもたちは音を鳴らす。動物の順番を入れ替える。 (こぶた―トーン#45、たぬき―太鼓・トーン#99の低音部、きつね―手作りカスタネット・トーン#99の高音部、ねこ―トーン#59) →「こぶたぬきつねこ」を歌いながら、休符の部分を打楽器で打ったり、キーボードを弾いたりする。

B神経衰弱ゲーム
 内蔵曲に対応したイラストが描かれたカード12種類を用意する。内蔵曲を再生し、それに対応するカードをあてる。 (写真4)

神経衰弱ゲーム
写真4 神経衰弱ゲーム

C背景音楽・効果音付き絵本
 『ノンタンあそぼうよ2 ノンタンおやすみなさい』(偕成社)に電子キーボードで音・音楽をつけながら、読み聞かせをする。
 タイトルを読む (「星に願いを」ソング#12) →“そうだ!”(トーン#97でグリッサンド) → “うさぎさんちにあそびにいこう”(ソング#00「さんぽ」) → “あそびましょ”(トーン#39 譜例3) →“つまんないの” (トーン#41 譜例4)→“あそびましょ”→ 小鳥の声(トーン#39 譜例5) →“つまんないの” (トーン#41) → いびき(マイクを擦る) →“つまんないの”(トーン#41) →“あいこでしょ・・・” (リズム#00をBGMにして) →“ドッチーン、パシャーン”(トーン#99 低音域と高音域) → “おやすみ”(「きらきら星」ソング#13)

譜例3 譜例4 譜例5
譜例3 譜例4 譜例5


5.考察

(1)リズムにふさわしい動きの模索

 本研究では、電子キーボードに内蔵されているリズムパターン、スタート・ストップボタン、テンポが変更できることを活用して、ゲームやリズム打ち、身体の動きなどについて考えた。ピアノの演奏技術や即興演奏力のない保育者には難しいとされてきたリトミック活動において、ポッブス系のリズムから幼児の身体の動作を考えるという新しいアプローチができたのではないかと思う。電子キーボードLK-5 BEのリズムパターンは汎用性の高い25種類を内蔵しており、比較的入念にアイデアを出せた。しかし、価格帯によってはもっと多くのリズムパターンをもつ機種が多いので、どのパターンが幼児のどのような身体の動きと合うのかをさらに考えていく必要がある。



(2)絵本に背景音楽・効果音を付ける活動へ

 本研究では、電子キーボードに内蔵されている音やソングを使ってゲーム、身体運動、音楽に対するイメージを膨らませる実践、背景音楽・効果音付き絵本の読み聞かせなどを行なった。とりわけ、絵本に背景音楽・効果音を付ける活動は、あらゆる幼稚園・保育園に常に存在する絵本を使うという点で、また、他の楽器及びリサイクル楽器などを用いた演奏に置き換えることができるという点で、日常的で誰にでも取り組める活動であると思われる。



(3)光ナビゲーション/鍵盤への興味・関心

 本研究では、光ナビゲーション機能を使ったゲーム、演出、簡単な曲の演奏などを考えた。実践の場として幼稚園・保育園を想定したので、鍵盤学習の側面をできるだけ廃して、子どもが鍵盤のおもしろさを実感し、楽しくあそぶことができるように配慮した。
 内蔵曲に関しては、難しく凝ったアレンジのものがよいという意見と、童謡などを中心とした簡単なメロディのものがよいという意見があった。曲(カラオケ)の再生と鍵盤の練習という2つの目的のために光ナビゲーション機能が付帯されていることを考えるならば、このような意見が出てくるのは当然であるだろう。
 しかしながら、インターネットから曲をダウンロードして再生し、それらに合わせて歌うのであればコンピュータを使えば十分であり、わざわざ鍵盤を用いる必要はないのではないか、あくまでも子ども自身が演奏することを前提に選曲したほうがよいのではないかと筆者らは感じている。
 そうした場合、鍵盤教育の場ではない保育園、幼稚園に鍵盤学習の側面を導入することの是非やその程度について考えなければならないと思う。また、音楽を楽しむとはいっても、いつまでも運指方法を教えずに“1本指”で弾かせることの弊害も検討されなければならない。
  本稿の最後に、幼児用の電子キーボードの内蔵曲としてふさわしい楽曲リストを載せた。()これは京都女子大児童学科3回生と1回生、約152名にアンケートをした結果を集計したものである。



(4)電子キーボードとカード類の併用

 本研究では、[電子キーボード+α]のαとしてカード類を中心に考えた。うずらの里児童館での神経衰弱ゲームは、参加者の大半が2歳児未満の子どもたちであったため、比較的初歩的な内容であったが、年齢に合わせてさまざまに展開、応用できると思われる。
 長調と短調の短いフレーズを聴かせ、長調と短調を比較する耳を養わせる実践などは、音楽教室の指導内容であるか、幼稚園、保育園で行われてもよいかということも検討されるべきであろう。



おわりに

 鍵盤という普遍的なインターフェイスをもつ鍵盤楽器は、現代の音楽教育において歌うことと並んで基礎とされている。しかしながら、テクノロジーの進展に伴い、新製品へのモデルチェンジが不可避である電子キーボードは、これまで普遍的な指導方法が定着しにくい状況にあり、“ピアノの代用品”あるいは“音の出る鍵盤おもちゃ”としての位置づけに甘んじてきた。
 本研究における実践例もそれぞれは個別的であり、当該機種を所有している人にしか追試できないが、保育者のリズムに対する感性は、電子キーボードに内蔵されるリズムパターンを使って子どもの身体の動きを考えるなどといった実践を通じて、少なからず磨かれるに違いない。
 今回使用したCASIO 光ナビゲーションキーボード LK-5 BEは低価格かつ多機能性を実現した結果、音量が小さく、外部のアンプに接続できない、マイクがハウリングを起こすなどの問題点もある。それらを改善しつつ、最終的には、幼児に最も適した電子キーボードのサンプル、そのカスタマイズの具体的方法について提案していきたいと思う。
 加えて、[電子キーボード+α]でのカードあそびは、現在、相互に関連性をあまり持たずに存在している音楽レッスンと幼児向け知育システムとの接点を探る契機となり、考える力の育成などを目指した新たな音楽学習システムの構築、ゲーム感覚によるソルフェージュ指導へのヒントを筆者らに与えてくれた。
  絵本の読み聞かせに音・音楽をつけることの是非もまた機会があればあらためて論述することにしたい。



謝辞

 本研究に対して実践の場を与えてくださった渋谷区立富ヶ谷保育園(東京都渋谷区)、うずらの里児童館(京都市伏見区)、電子キーボードLK-5 BEを25台貸与してくださったカシオ計算機株式会社に感謝します。




Abstract

     In these days, electronic keyboards are popularly used among people, as substitute of piano or as "a toy with keyboards". The aim of this study is to explore the potentiality of adopting these keyboards into music education in kindergardens, nursery schools, and utilizing them at the scene of rhythmic activities and music plays as it can be handled by ordinary child-care workers. In the study, we focused on four subjects, "rhythm", "tone", "optical navigation", " electronic keyboards +α". "Rhythm" indicated the practice of utilizing the rhythms built in keyboards, changeable rhythms and tempos and a start-stop button. "Tone" indicated the practice around tone, and "optical navigation" was that of utilizing luminous keyboards. In " electronic keyboards + α", other materials, e.g. cards, were utilized.
     On "rhythm", we invented some games and body movements, using the rhythms. It enabled us a new approach, that is, to invent infants' body movements derived from the rhythms of pop music, at the scene of rhythmic activities, though it had been said that it would be difficult for care workers who don't have technique for playing the piano and improvising. On "Tone", we made the practice of inventing games and "a picture book with sound effect" and enhancing images of music by using the sounds and songs. Especially, we found that the activity of making music and sound for picture books is possible for every care worker in their daily programme, because picture books can be always found in every kindergarten and nursery school and it can be converted to other instruments. On "Optical Navigation", we invented games, and performance of easy tunes, using the function of optical navigation. On electronic keyboards + α", we adopted mainly playing cards as "+α".
     While keyboards as interface have been comprising the basis in music education as singing, an universal method for teaching electronic keyboards has not been established, because their modes will be inevitably changed to that of new models. Also in the practices stated above, each example was unique and additional tests would be possible only for the people who own the relevant model. However, we could propose the most appropriate way of utilizing electronic keyboards for infants. In addition, the card play on "electronic keyboards + α" became a chance for us to explore the contact point between music lessons and intellectual education system for infants, and it gave us some hints for constructing a new music learning system aiming for development of infants' thinking power, etc.




資料


表 学生の考える内蔵曲に適した楽曲ベスト20

A 現状の内蔵20曲と新規提案楽曲との総合

順位

曲名

内蔵

1

『となりのトトロ』より さんぽ

105

内蔵

1

ミッキー・マウス・マーチ

105

内蔵

3

おもちゃのチャチャチャ

102

内蔵

4

森のくまさん

100

内蔵

4

ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー

100

内蔵

6

小さな世界

98

内蔵

7

ジングル・ベル

97

内蔵

8

大きな古時計

96

内蔵

9

きらきら星

94

内蔵

10

ドラえもんのうた

90

内蔵

11

あわてんぼうのサンタクロース

89

内蔵

12

星に願いを

74

内蔵

13

ちょうちょう

73

内蔵

14

となりのトトロ

66

内蔵

15

ねこふんじゃった

61

内蔵

15

サザエさん

61

内蔵

17

アンパンマンのマーチ

60

 

18

世界に一つだけの花

34

 

19

アイアイ

32

 

20

手のひらを太陽に

31

 

B 新規提案楽曲

順位

曲名

1

アンパンマンのマーチ

60

2

世界に1つだけの花

34

3

アイアイ

32

4

手のひらを太陽に

30

5

ドレミの歌

27

6

どんぐりころころ

26

7

うみ

24

8

南の島のハメハメハ大王

24

9

山の音楽家

23

10

大きな栗の木の下で

21

11

線路は続くよどこまでも

20

12

いぬのおまわりさん

18

13

おどるポンポコリン

18

14

ふしぎなポケット

17

15

お正月

16

16

ゆき

15

16

おばけなんてないさ

15

18

思い出のアルバム

15

19

チューリップ

14

19

アイスクリームのうた

14



譜例6 リズムパターン譜面(ニュアンス)





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