電子キーボードを活用した幼児の音楽セッションに関する研究
深見友紀子(京都女子大学教授)、冨田芳正・横山七佳(渇ケ感教育研究所)
(京都女子大学 発達教育学部紀要 第2号 平成18年2月より) |
はじめに 現在、電子キーボードは、楽器店や家電量販店で販売されている。「ピアノを置く場所がないから」「ピアノのような高価なものを買っても子どもがレッスンを続けるかどうかわからないから」などの理由で、"とりあえず"購入されることが多く、安価で手軽であるために、電子楽器のなかでの位置づけも低い。
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1.電子キーボードとは (1)電子キーボードの特徴 1) 軽量で持ち運びが簡単であり、電源を電池で供給することができる電子キーボードは、高性能な機種であっても鍵盤数は76鍵以内であるという点で、88盤をもつ電子ピアノとは区別される。
1) カシオ計算機株式会社 http://www.casio.co.jp/emi/ |
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(2)CASIO光ナビゲーションキーボード LK-5BE 今回の実践では、CASIO 光ナビゲーションキーボード LK-5 BE(写真1)を使用した。
@トーン(音色) 全100色
Aリズム 全25パターン(本稿で取り上げたリズムパターンは文末に資料として掲載)
Bソング(曲) 全20曲
C光ナビゲーションゲーション機能
Dその他
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2.渋谷区立富ヶ谷保育園(東京都渋谷区)での実践 (1)実践の概要 平成16年(2004)11月8日から11月26日にわたり、2歳児から5歳児までの子どもたちに、CASIO 光ナビゲーションキーボード LK-5 BEを使って、〔リズム〕、〔トーン〕、〔光ナビゲーション〕、〔電子キーボード+α〕という4つの内容で実践を行った。
@3歳児クラス・うさぎ組
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(2)各実践の詳細 @〔リズム〕 *リズムにのって歩こう・踊ろう
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A〔トーン〕 *打楽器の音で遊ぼう
*ハンドベル方式で曲を弾こう
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B〔光ナビゲーション〕 *「きらきら星」を弾こう〜標準バージョン
*「きらきら星」を弾こう〜簡単バージョン
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C[電子キーボード+α] *顔の表情と調性
*サンタとツリー〜言葉と絵による読譜
2) 『ミッフィーのピアノの絵本』(ヤマハミュージックメディア)を参考にした。 |
3.京都女子大学の授業での実践 (1)実践の概要 2.の実践を踏まえて、CASIO 光ナビゲーションキーボード LK-5 BEを使って〔リズム〕、〔トーン〕、〔光ナビゲーション〕、〔電子キーボード+α〕という4つの内容でアイデアを出し合った。 @1回生 児童表現学T
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(2)各アイデアの詳細 @〔リズム〕 *ゲーム
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A[トーン] *ゲーム
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4.うずらの里児童館(京都市伏見区) での実践 (1)実践の概要 平成17年(2005)3月11日、10時30分〜12時、地域子育て支援ステーション事業、子育て講座「音楽であそぼう」において、電子キーボードを使った実践を行なった。音楽鑑賞、ハンドベル、手作り楽器による演奏なども交えたため、電子キーボードの実践としては量的に少ないが、その様子を記述することにする。 |
(2)実践の詳細 @身体の動き
A「こぶたぬきつねこ」を使った音楽あそび
子どもたちを4グループにわけ、こぶた、たぬき、きつね、ねこの小さなイラストカードと、手作り楽器、電子キーボードを配る。大きな4種類のイラストカードのうちの1つを提示し、その動物グループの子どもたちは音を鳴らす。動物の順番を入れ替える。 (こぶた―トーン#45、たぬき―太鼓・トーン#99の低音部、きつね―手作りカスタネット・トーン#99の高音部、ねこ―トーン#59) →「こぶたぬきつねこ」を歌いながら、休符の部分を打楽器で打ったり、キーボードを弾いたりする。 B神経衰弱ゲーム
C背景音楽・効果音付き絵本
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5.考察 (1)リズムにふさわしい動きの模索 本研究では、電子キーボードに内蔵されているリズムパターン、スタート・ストップボタン、テンポが変更できることを活用して、ゲームやリズム打ち、身体の動きなどについて考えた。ピアノの演奏技術や即興演奏力のない保育者には難しいとされてきたリトミック活動において、ポッブス系のリズムから幼児の身体の動作を考えるという新しいアプローチができたのではないかと思う。電子キーボードLK-5 BEのリズムパターンは汎用性の高い25種類を内蔵しており、比較的入念にアイデアを出せた。しかし、価格帯によってはもっと多くのリズムパターンをもつ機種が多いので、どのパターンが幼児のどのような身体の動きと合うのかをさらに考えていく必要がある。 |
(2)絵本に背景音楽・効果音を付ける活動へ 本研究では、電子キーボードに内蔵されている音やソングを使ってゲーム、身体運動、音楽に対するイメージを膨らませる実践、背景音楽・効果音付き絵本の読み聞かせなどを行なった。とりわけ、絵本に背景音楽・効果音を付ける活動は、あらゆる幼稚園・保育園に常に存在する絵本を使うという点で、また、他の楽器及びリサイクル楽器などを用いた演奏に置き換えることができるという点で、日常的で誰にでも取り組める活動であると思われる。 |
(3)光ナビゲーション/鍵盤への興味・関心 本研究では、光ナビゲーション機能を使ったゲーム、演出、簡単な曲の演奏などを考えた。実践の場として幼稚園・保育園を想定したので、鍵盤学習の側面をできるだけ廃して、子どもが鍵盤のおもしろさを実感し、楽しくあそぶことができるように配慮した。
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(4)電子キーボードとカード類の併用 本研究では、[電子キーボード+α]のαとしてカード類を中心に考えた。うずらの里児童館での神経衰弱ゲームは、参加者の大半が2歳児未満の子どもたちであったため、比較的初歩的な内容であったが、年齢に合わせてさまざまに展開、応用できると思われる。
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おわりに 鍵盤という普遍的なインターフェイスをもつ鍵盤楽器は、現代の音楽教育において歌うことと並んで基礎とされている。しかしながら、テクノロジーの進展に伴い、新製品へのモデルチェンジが不可避である電子キーボードは、これまで普遍的な指導方法が定着しにくい状況にあり、“ピアノの代用品”あるいは“音の出る鍵盤おもちゃ”としての位置づけに甘んじてきた。
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謝辞 本研究に対して実践の場を与えてくださった渋谷区立富ヶ谷保育園(東京都渋谷区)、うずらの里児童館(京都市伏見区)、電子キーボードLK-5 BEを25台貸与してくださったカシオ計算機株式会社に感謝します。 |
Abstract In these days, electronic keyboards are popularly used among people, as substitute of piano or as "a toy with keyboards". The aim of this study is to explore the potentiality of adopting these keyboards into music education in kindergardens, nursery schools, and utilizing them at the scene of rhythmic activities and music plays as it can be handled by ordinary child-care workers.
In the study, we focused on four subjects, "rhythm", "tone", "optical navigation", " electronic keyboards +α". "Rhythm" indicated the practice of utilizing the rhythms built in keyboards, changeable rhythms and tempos and a start-stop button. "Tone" indicated the practice around tone, and "optical navigation" was that of utilizing luminous keyboards. In " electronic keyboards + α", other materials, e.g. cards, were utilized.
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資料 表 学生の考える内蔵曲に適した楽曲ベスト20
譜例6 リズムパターン譜面(ニュアンス)
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